【中級者向け】年金シミュレーションと取崩し戦略

投資戦略

公的年金制度の現状

国民年金は基本的に日本に住む20歳から59歳までのすべての人が加入する義務があります。自営業者やフリーランス、学生、専業主婦(夫)などが主に対象ですが、厚生年金加入者も同時に国民年金に加入しています。2024年現在、満額納付で年間約80万円(月額約65,000円)の支給となっています。加入期間や支払い状況により支給額は異なっていきます。国民年金の課題は未納問題と受給額の低さです。国民年金保険料(月額16,520円程度)が経済的理由などで納付できなかったため、将来的に受給資格を満たせなくなる人が増えています。また、低い受給額のため国民年金のみで生活を支えるのは難しく、多くの人が貯蓄や私的年金を補完的に利用してなんとかやりくりしているのが現状です。

厚生年金は会社員や公務員が加入する制度で、企業が保険料を半分負担します。給与やボーナスに応じた保険料を支払い、将来の年金額も支払い実績に基づいて計算されます。厚生年金の支給額は給与所得によって個人差がありますが、平均的な厚生年金受給者の年額は約150万円〜200万円となっているようです。厚生年金の課題高齢化による負担増と、非正規雇用の増加です。少子高齢化が進み、現役世代(保険料を支払う人)の負担が増えています。2024年時点で、65歳以上の高齢者1人を約2人の現役世代で支えるいわゆる賦課方式と呼ばれる状況です。非正規雇用者の増加により厚生年金に加入していない労働者が多くなり、将来の年金格差が問題視されています。

高齢者人口の増加に伴い年金支給額が増えている一方で、現役世代の人口の減少や賃金停滞により年金財源が圧迫されて、財源不足が深刻な問題になっています。また、かつては60歳から受け取れた年金が、現在では原則65歳からとなっており、さらに70歳以上への受給年齢の引き上げ議論も進行中です。公的年金だけでは老後の生活費を十分に賄えない場合が多いため、iDeCoや積立NISAといった私的な資産運用が重要視されるようになり、活用する人も大幅に増えています。

政府の取組としては、これまで25年必要だった受給資格期間を10年に受給資格期間が短縮されました。また、厚生年金加入対象の非正規労働者を増やす取り組みを進めています。2024年11月現在、バイトやパートタイムの労働者も含めて全員を社会保険に加入させるべく106万円の壁を取り払って労働者の損失分を会社側に負担させる案などが現在検討されています。さらに、現行の賦課方式に代わる部分的な積立方式の導入検討など、持続可能な年金制度への見直しが進行中です。

日本の年金制度は、高齢化や少子化の影響を受けながら、持続可能性を模索している過渡期にあります。国民にとっては、制度の理解を深めるとともに、老後に備えた自主的な資産形成がますます重要となっています。

受取年金見込額の確認

「ねんきん定期便」は、日本の年金制度における重要な情報提供ツールです。日本年金機構が、毎年一度、すべての年金加入者(公的年金に加入している方)に送付する書類で、年金に関する情報がわかりやすくまとめられています。ねんきん定期便は、毎年誕生月の2ヶ月前に作成され、誕生月に届くように発送されています。毎月1日生まれの方については例外的に3ヶ月前に作成し、前月のうちに届くようです。 毎年、自分の誕生日が近くなったら、ねんきん定期便の到着を気に掛けておきましょう。

1.未納が無いか

未納期間があると将来受け取れる年金額が減ってしまうため、毎年チェックすることが重要です。「これまでの年金加入期間)」の欄で確認していきます。前年度と比較して保険料を納め忘れた期間がある場合は、その情報も記載されているようです。未納分を後から納める方法(追納)についての案内を確認しましょう。

2.加入記録の漏れがないか

勤務先が手続きミスをしている場合もあります。「最近の月別状況」と「これまでの保険料納付額(累計額)」の欄から確認していきます。

3.将来の年金額の見通し

生活設計に役立てるため、年金以外の収入源の必要性を考えるきっかけになります。「これまでの加入実績に応じた年金額(年額)」の欄から確認していきます。公的年金は改悪されていく可能性が高いです。老後資金の投資戦略を変更していく必要が出てくる可能性があるので、毎年必ず確認するようにしていきましょう。

「保険料納付額」「年金加入期間」「加入実績に応じた年金額」を毎年エクセルなどでデータ入力しておくと漏れが無くなり、確認しやすくなると思います。マイナポータルからログインして、「ねんきんネット」で確認することも可能です。

退職金の利用想定

退職金には大きく分けて「退職一時金制度」と「企業年金制度」の2種類があります。退職一時金制度とは、一度にまとまった金額を退職時に支払う形式のことです。企業が独自に積み立てを行い退職時に支給されます。企業年金制度とは、定期的に年金として支給される形式で確定給付型(DB:Defined Benefit)と確定拠出型(DC:Defined Contribution)があります。確定給付型年金とは、退職後に受け取る金額が事前に確定している制度で、企業が運用リスクを負います。確定拠出型年金とは、企業や個人が拠出した資金を従業員が運用して、その成果によって受け取る金額が変動する制度です。

厚生労働省の調査によると、経済環境の変化や企業の経営効率化に伴い、退職金の支給額は1990年代に比べて縮小傾向にあります。企業側の運用リスクを軽減してコスト負担を抑えるようにするため、確定給付型から確定拠出型への移行が進んでいます。個人型のiDeCo(個人型確定拠出年金)も普及しており、個人での資産形成が重要になっています。非正規社員(パート・アルバイト・契約社員など)は退職金制度の対象外となる場合が多く、格差が広がっています。

今後の動向としては、老後資金への不安があげられます。公的年金だけでは老後の生活費を賄いきれないと考える人が多く、退職金の重要性が増しています。確定拠出型年金の増加により、従業員自身が運用に対する知識やスキルを身につけることが求められています。資産運用の必要性が増していると考えられます。政府の支援策としても、iDeCoやNISAなど、老後資金の形成をサポートする制度が拡充されています。

退職金制度は減少傾向にありますが、企業年金や個人型年金の役割が増してきています。正社員と非正規雇用の間で格差が広がっているため、自分の退職金や老後資金の計画を早めに立て、運用や貯蓄を進めることが重要です。退職金制度の理解を深めて、自身の将来設計に役立てましょう!

退職金の使い方に関しては、予めライフプラン出費と合わせて考えておくことが重要です。老後資金として使うのか、ローン返済等で使ってしまうのかによって、年金としての準備金額が変わってきます。また、iDeCoを退職金扱いで受給して退職所得控除を受ける予定の場合は注意が必要です。これは「iDeCoの5年ルール」や「退職金の19年ルール」などと呼ばれるもので、退職金を受け取った後に確定拠出年金を一時金で受け取るケースでは、その期間が19年以内なら退職所得控除の調整が行われてしまいます。 確定拠出年金の一時金の受け取り年齢は75歳までなので、退職所得控除をフル活用するためには退職金の受け取りを55歳までに行う必要があります。

年金の繰下げ受給戦略

年金の繰下げ受給とは、年金を受給し始める年齢を65歳以降に遅らせることです。受給を遅らせた期間に応じて年金額が増額されます。増額率は1ヶ月繰り下げるごとに年金額が 0.7% 増額されて、1年間(12ヶ月)繰り下げると 8.4% 増加することになります。最大で75歳まで繰り下げ可能で、その場合の増額率は 84% となります。

年金繰下げ受給のメリットは生涯受給額が増える可能性があることです。長生きすればするほど、繰下げた分の増額メリットが大きくなります。また、現役引退直後の高い所得がなくなる時期に受給開始を遅らせることで、年金収入に対する所得税や住民税の課税を抑えられる場合があります。65歳以降も働く場合、年金受給を遅らせることで、現役収入と年金の併用を調整することができます。反対に年金繰下げ受給のデメリットは、受給開始前に死亡した場合、年金を受け取れないことです。繰下げ期間中に亡くなると増額分を受け取れないため、生涯受給額が少なくなるリスクがあります。繰下げ期間中の生活費を他の収入や貯蓄で賄う必要があります。そのため繰下げ中は収入源が少なくなる可能性があります。また、長生きする前提での選択なので、自身の健康状態を考慮する必要があります。

繰下げ受給戦略を考えるポイントとして、まずは寿命の予測が挙げられます。日本人の平均寿命(男性:約81歳、女性:約87歳)を参考にし、自分の健康状態や家族の長寿歴を考慮します。 次に、繰下げ期間中の収入源をどう確保するかを検討します。働き続ける予定がある場合は繰下げのメリットが大きくなります。さらに他の収入とのバランスを考える必要があります。資産運用や退職金、貯蓄などとの組み合わせを考慮して、年金の受給開始時期を決めるようにします。

増額率月額期間中の受給額
65~85歳で受給0%20.0万円4,800万円
70~85歳で繰下げ受給42%28.4万円5,112万円

70歳からの繰り下げ受給の方が、85歳時点で生涯受給額が増える計算になります。ふつうに65歳から85歳まで受け取ると 20万円 × 12ヶ月 × 20年 = 4,800万円になります。

5年間繰下げ受給して70歳から受給すると増額率が 42% 増えて月額28.4万円になります。70歳から85歳まで受け取ると 28.4万円 × 12ヶ月 × 15年 = 5,112万円。

繰下げ受給は「長生きするほど得をする」仕組みですが、逆に短命となってしまった場合は損をする可能性があります。年金以外の収入や健康状態、働き方を総合的に考え、自分に合った受給するタイミングを選ぶことが重要です。専門家や年金事務所に相談してみるのも良いでしょう。

自分年金シミュレーション

1.現在保有している資産引退時でいくらになってるか?

実際にカシオのKEISANサイトを使ってシミュレートしてみます。

カシオKEISANサイト→https://keisan.casio.jp

生活の計算→お金の計算→利息計算→複利計算(元利合計)

  • 年利→5%(厳しく見積もったオルカンの年利)
  • 元金→300万円(自分の資産の現在評価額)
  • 経過年数→45(75-自分の年齢)
  • 複利周期→1年

たとえとして、自分が30歳で、資産評価額が中央値くらいと考えられる300万円だとして計算してみます。年利(想定利回り)はオルカン利回りを基準とします。厳しく見積もって5%にすれば間違いないでしょう。年金の繰下げ受給の最長が75歳なので、経過年数を45年(75歳-30歳=45年間)にしてシミュレートしてみます。複利周期を1年にしてあるので70歳時点(経過年数40年目)、65歳時点(経過年数35年目)も確認することができます。

65歳時点35年後約1,654万円
70歳時点40年後約2,111万円
75歳時点45年後約2,695万円

実際に自分の保有資産の現在評価額と自分の年齢から逆算した経過年数を調べて、カシオのKEISANサイトでシミュレーションしてみてください。引退時まで現在の保有資産に追加投資することなく、5%想定の複利運用したらいくらになるのかの想定額が把握できると思います。

2.これから引退点までの積立投資はいくらになるか?

実際にカシオのKEISANサイトを使ってシミュレートしてみます。

カシオKEISANサイト→https://keisan.casio.jp

生活の計算→お金の計算→積立計算→年金終価係数

  • 毎年積立額60万円(毎月の積立額×12ヶ月)
  • 年利率→5%(厳しく見積もったオルカンの年利)
  • 積立年数→45年(75-自分の年齢)
  • 小数点以下3桁端数四捨五入

現実的に考えて毎月5万円、年額60万円を45年オルカンで運用したと仮定して計算してみます。毎月iDeCo満額2.3万円、NISA2.7万円で、毎月5万円の積立想定です。45年間で新NISAの投資元本1,458万円なので、まだ非課税枠が342万円余っている計算です。年利率(想定利回り)は同様に厳しく見積もったオルカン利回り5%と設定します。

65歳時点35年後約5,419万円
70歳時点40年後約7,248万円
75歳時点45年後約9,582万円

実際に自分の毎月の積立額と自分の年齢から逆算した経過年数を調べて、カシオのKEISANサイトでシミュレーションしてみてください。毎月5万円の積立は45年間の総投資元本2,700万円に対して、1億円弱の評価額になる想定です。複利のパワーの凄さが確認できると思います。

老後生活シミュレーション

1.老後資産はいくら必要か?

まずは現在の生活費を確認してみましょう。投資をやっていく際に生活防衛資金を準備している人は毎月の生活費をある程度は把握できているはずです。引退時には現役時代ほどの生活費は必要なくなっていると思います。食欲も減退するだろうし、オシャレに気を使うことも少なくなると想定されます。増えるのは医療費と孫への小遣いくらいでしょうかネ?

総務省統計局のデータを参照すると、令和4年度における65歳以降の老後に必要な生活費は、 独身者で約15.5万円、夫婦2人で約26.8万円 という結果になっているようです。

ゆとりある老後生活を送るための費用として、最低日常生活費以外に必要と考える金額は平均14.8万円となっています。 その結果、「最低日常生活費」と「ゆとりのための上乗せ額」を合計した「ゆとりある老後生活費」は平均で37.9万円くらいのようです。ザックリ計算で、老後は3.5%で取り崩していくと考えると、ゆとりある老後には約1億~1.3億円くらい必要になってきそうです。

37.9万円 × 12カ月 ÷ 0.035 ≒ 1.3億円

詳しく計算する場合は、「住居費・通信費・水道光熱費等の固定費が合計〇〇円、食費・日用品・医療費・美容費・交際費等が合計△△円、総合計で×××円」のように、個別具体的に計算していきます。ただし引退時点での日本の物価や自分の健康状態がどうなっているかはわかりません。数年に1回くらいの割合でシミュレーションを再計算してみる必要があると思います。

2.必要額の捻出をゴールベースアプローチで考える

①いつまでにいくら準備したいか

今回は公的年金制度の改悪が続いて、自分が65歳から年金受給する場合に月額10万円になってしまった場合の最悪の状況を想定してシミュレートしてみます。ゆとりのある老後生活費が変わらず37.9万円だとすると月額27.9万円、年額で約335万円足りないことになります。毎年3.5%で金融資産から取崩ししていくと考えると、自分年金として65歳までに約9,600万円準備する必要があることになります。

335万円 ÷ 0.035 ≒ 9,600万円

②必要リターンを変更してみる

最初はオルカン(全世界株式インデックス)を基準にして考えていきます。想定利回りは厳しく見積もって年利で5%に設定します。上記の「自分年金シミュレーション」のところで試算したように30歳現在の金融資産評価額が300万円で毎月5万円の積立投資をしていったとすると、65歳時点で約7,073万円(1,654万円+5,419万円)ですので約2,527万円(9,600万円-7,073万円)くらい足りません。

再びカシオ計算サイトに戻って計算してみます。

カシオKEISANサイト→https://keisan.casio.jp

  • 生活の計算→お金の計算→利息計算→複利計算(元利合計)
  • 生活の計算→お金の計算→積立計算→年金終価係数

35年間の積立計算の利回りを6%にしてみると約8,991万円(2,305万円+6,686万円)、利回りを7%にしてみると約1億1,496万円(3,202万円+8,294万円です。毎月の積立額を変更せずに自分年金9,600万円を作るには、利回り7%くらいが必要になることがわかりました。

③毎月の必要積立額を変更してみる

カシオKEISANサイト→https://keisan.casio.jp

生活の計算→お金の計算→積立計算→年金終価係数

今度は毎月の積立額を変更してシミュレーションしてみます。毎月6万円(年額72万円)積立に増額すると約8,157万円(1,654万円+6,503万円)、毎月7万円(年額84万円)積立に増額すると約9,240万円(1,654万円+7,586万円)、毎月8万円(年額96万円)積立に増額すると約1億324万円(1,654万円+8,670万円)となります。毎月7.5万円(年額90万円)積立で計算してみると約9,782 万円(1,654万円+8,128万円)になりました。利回り5%を変更せずに自分年金9600万円を作るには、毎月7.5万円積立くらいが必要になることがわかりました。

④リターン達成のための最適PFは何か?

以上のシミュレーションから想定利回りを5%→7%にあげるか、毎月の積立額を7.5万円まで増額することによって老後の自分年金9,600万円が準備できることになります。実際には2024年現在ではオルカンでも7%くらいの利回りを達成できているのですが、利回りをオルカンよりも2%くらい上げるには米国株の比率をもう少し上げるか、インド等の新興国の比率を上げるか、ビットコイン投資などが候補にあがります。無難に行くなら毎月のオルカンの積立額を7.5万円まで増額する戦略になります。

最適PFとは、言い換えれば「PFを35年超にわたる長期で保有し続けるために、想定されるリスクを取り続ける事ができるか?」ということになります。株価が高値更新し続ける時も、リーマンショック級の大暴落が来た時も、新たな魅力的なファンドが登場した時も、ブレずに淡々と積立投資を継続することが出来るくらいのメンタル保持が必要です。また、必要な老後資金は引退時の物価状況や為替レートによっても大きく変わってきますので、定期的にシミュレーションし直してみる事をオススメします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました