リスクとリターン
投資における「リスク・リターン」の文脈で「リスク」が示すのは、主に資産価格の変動幅のことです。これは投資対象の価格がどれだけ上下に変動するか、つまりボラティリティ(volatility)としても知られています。変動幅が大きいほどリスクが高いと見なされ、逆に変動幅が少ないほどリスクは低いとされます。
リスクを価格変動の振れ幅として捉える場合、投資対象(株式、債券、商品など)の価格が短期間でどの程度上下するかが焦点となります。価格が急激に上下する資産は、将来の価格が予測しにくく、投資家にとっての不確実性が高いと考えられます。
投資のリスクは標準偏差という統計指標で測定されることがあります。標準偏差とは、平均リターンからの価格の振れ幅を数値化したもので、リスクが高い資産ほどこの数値が大きくなります。
標準偏差が大きい→ 価格の上下動が大きく、不確実性が高い
標準偏差が小さい→価格が安定していて、変動が少ない
投資では「リスク・リターンのトレードオフ」といって、一般的に「リスクが高いほどリターンが期待できる」という考え方があります。これは、リスクが大きい投資商品はその分だけ大きなリターンをもたらす可能性があるためです。たとえば、株式は短期間で価格が大きく変動するため、リスクが高い一方で、長期的には高いリターンを期待できます。一方、リスクが低い定期預金などは、リターンも低くなりがちです。
標準偏差が示すリスク数値
標準偏差とは、データの平均値からのばらつきを測る尺度です。投資においては、資産のリターン(収益率)のばらつきを示します。標準偏差が大きいほど、リターンの変動が大きく、リスクが高いことを意味します。反対に、標準偏差が小さいとリターンの変動が少なく、リスクが低いことを意味します。1σ、2σ、3σは、標準偏差の倍数を表しており、統計的な確率分布に基づいてデータがどの範囲に収まるかを示します。正規分布(ガウス分布)では、以下のような確率でデータが分布します。
- 1σの範囲(±1標準偏差):データの約68.3%がこの範囲に収まります。つまり、投資リターンがこの範囲内で変動する確率が約68.3%です。
- 2σの範囲(±2標準偏差):データの約95.4%がこの範囲に収まります。リターンがこの範囲内に収まる確率が約95.4%です。
- 3σの範囲(±3標準偏差):データの約99.7%がこの範囲に収まります。リターンがこの範囲内に収まる確率が約99.7%です。
たとえば、ある株式の平均リターンが6%、標準偏差が10%である場合を考えてみましょう。
1σの範囲:6% ± 10% = -4%から16%の間。この範囲に収まる確率は約68.3%。
2σの範囲:6% ± 20% = -15%から25%の間。この範囲に収まる確率は約95.4%。
3σの範囲:6% ± 30% = -25%から35%の間。この範囲に収まる確率は約99.7%です。
標準偏差と σ (シグマ)を用いることで、リスクの高い資産と低い資産を比較できます。標準偏差が高い資産はリターンの変動が大きく、リスクが高いと見なされます。一方、標準偏差が低い資産は安定性が高く、リスクが低いと見なされます。一般的に株式の方が債券よりもリスクが高く、新興国の方が先進国よりもリスクは高く、ドル建ての方が円建てよりもリスクが高くなります。投資判断の際に、標準偏差やσを用いたリスクとリターンのバランスを考慮していくことが重要です。
リスク指標としては標準偏差のほかに「トラッキングエラー」や「最大ドローダウン」などがあげられます。トラッキングエラーとはポートフォリオのリターンとベンチマークのリターンとの差(アクティブリターン)の標準偏差をとった値で、ポートフォリオのリターンとベンチマークのリターンとの乖離の大きさを示す指標です。アクティブリスクと呼ばれることもあります。インデックスファンドは指数に連動させることを目的としているため、トラッキングエラーは基本的に小さいほうが良いとされます。最大ドローダウンとは保有資産の下落率のことです。 運用する資産に対して何パーセントの下落を許容できるかをあらかじめ設定し、投資戦略を考えるのがドローダウンの使い方です。 最大ドローダウンを大きく設定すれば、リスクを取って高いリターンを狙うことができます。
シャープレシオは効率性の評価
シャープレシオ=(PFのリターン-無リスク資産のリターン)÷リスク(リターンの標準偏差)
「PFのリターン」とは投資対象ポートフォリオの期待されるリターンの事です。「無リスク資産のリターン」とは安全な資産のリターンのことで、「リスクフリーレート」とも呼ばれます。主に日本の10年国債利回りと同義になります。また、「リスク(リターンの標準偏差)」とはリターンの変動の大きさを示す指標です。
シャープレシオ(Sharpe Ratio)は、投資のリスクとリターンを評価するための指標です。具体的には、リスクに対してどれだけのリターンが得られているかを示します。投資のパフォーマンスを比較する際に役立ち、特にファンドやポートフォリオを評価するのに使われます。一般的にはシャープレシオが1.0以上であれば優良なファンド、2.0以上までいくと非常に優良なファンドであると考えられています。
高いシャープレシオとは、リスクに対してリターンが高いことを意味します。つまり、効率的な投資と考えられます。反対に低いシャープレシオとは、リスクに対してリターンが低いため、効率的でない投資とみなされます。マイナスのシャープレシオとは、リターンが無リスク資産を下回っていることを示します。これはリスクを取る価値がない可能性があるという意味です。
たとえば、二つのファンドAとBがあるとします。ファンドAのシャープレシオが1.5で、ファンドBのシャープレシオが0.8だった場合、ファンドAの方がリスクに対するリターンが高いと判断できます。シャープレシオは、異なる投資戦略や資産の比較をする際に役立ちますが、リスクの種類や市場の状況を考慮する必要があります。
相関係数の範囲と意味
相関係数(そうかんけいすう)は、2つの変数がどの程度関連しているかを示す指標です。投資においては、異なる資産のリターン(例えば株式と債券の価格変動)がどのように連動して動くかを評価するために使われます。相関係数は -1 から +1 の範囲で表されます。一般に+0.2~-0.2の間では相関は弱く、プラス0.7以上では強い正の相関があるとされます。
- +1:完全な正の相関。2つの資産が同じ方向に同じ割合で動くことを意味します。例えば、株Aが10%上がるとき、株Bも必ず10%上がるような関係です。
- 0:相関がない。2つの資産の動きに関連性がなく、互いに影響を与えないことを意味します。株Aの動きが株Bにまったく関係ないケースです。
- -1:完全な負の相関。2つの資産が正反対の方向に動くことを意味します。例えば、株Aが10%上がるとき、株Bは必ず10%下がるような関係です。
相関係数は、ポートフォリオを分散させるために非常に重要です。一般的には、異なる資産クラスや市場で低い相関(ゼロに近いか負の相関)の資産を組み合わせることで、リスクを減少させ、ポートフォリオ全体の安定性を高めることができます。正の相関は株式市場全体の上昇に伴い、多くの個別株が上昇するようなケースです。負の相関は株式市場が下落する一方で、債券が上昇するようなケースです。これは、投資家がリスク資産から安全資産へ移動するためによく見られる現象です。
投資におけるアルファとベータ
投資における「α(アルファ)」とは、投資のパフォーマンスが市場全体やベンチマークと比べてどれだけ優れているか、あるいは劣っているかを示す指標です。より具体的には、アルファはポートフォリオのリターンから、そのリスクに見合った期待リターンを引いた値です。
たとえば市場全体の平均リターンが5%で、自分の投資ポートフォリオのリターンが8%だったとします。もしそのポートフォリオが市場全体と同じリスクレベルで運用されている場合、その追加の3%のリターンがアルファとなります。
アルファは投資の運用成績を評価するために使われ、投資の管理者(ファンドマネージャーなど)の実力を測る尺度になります。プラスのアルファが得られる場合、その投資管理者は市場の平均を上回る優れた成果を上げているとされ、マイナスのアルファは市場の平均を下回る成績を意味します。
アルファは投資の付加価値を示す指標であり、プラスであれば市場を上回る成績、マイナスであれば市場に劣る成績を表します。投資家がファンドや資産運用を評価する際に重要な要素となります。
投資における「β(ベータ)」とは、特に株式市場において、特定の資産(たとえば個別の株式)が市場全体に対してどの程度のリスク(価格変動の度合い)を持っているかを示す指標です。α (アルファ) とβ (ベータ) の関係を式にあらわすと以下のようになります。
α=ポートフォリオのリターン−【ベンチマークのリターン+β×(市場のリターン−無リスク利子率)】
β(ベータ)とは、ポートフォリオのリスクを測るための指標で、市場全体との連動性を示します。また無リスク利子率とは、安全な資産から得られる利子率のことです。
ベータは具体的には次のように解釈されます。
- ベータ = 1:この場合、その資産の価格変動は市場全体とほぼ同じ程度であることを意味します。つまり、市場全体が10%上昇するとその資産も平均して10%上昇し、市場が10%下落すればその資産も同程度に下落する傾向があります。
- ベータ > 1:ベータが1を超える場合、その資産は市場よりも変動が大きいとされます。たとえば、ベータが1.5の場合、市場が10%上昇するとその資産は15%上昇する可能性があり、逆に市場が10%下落すると15%下落する可能性があります。このような資産はリスクが高いとされますが、同時に高リターンの可能性もあります。
- ベータ < 1:ベータが1より小さい場合、その資産は市場よりも変動が小さいことを示します。たとえば、ベータが0.5の場合、市場が10%上昇するとその資産は5%程度しか上昇しない可能性があり、市場が10%下落しても5%程度しか下がらないことが期待されます。このような資産は比較的リスクが低いと見なされます。
- ベータ = 0:この場合、その資産の動きは市場全体の変動とは無関係であることを意味します。市場の動きに影響を受けず、独自の要因で価格が変動する資産です。
- ベータ < 0:負のベータを持つ資産は、一般的には市場の動きと逆の方向に動くことが期待されます。たとえば、ベータが-1の場合、市場が10%上昇するとその資産は10%下落し、市場が10%下落すると10%上昇する傾向があります。
ベータは、ポートフォリオのリスク管理や、特定の株式やファンドが市場全体とどのように相関しているかを理解するために使われます。たとえば、リスクを抑えたい場合にはベータが低い資産を選び、リターンを追求したい場合にはベータが高い資産を組み入れることが考えられます。
分散効果についての考え方
リスク分散(分散投資)とは、投資ポートフォリオにおいて、異なる種類の資産や金融商品を組み合わせることで、リスクを軽減する投資戦略のことです。1つの資産に集中して投資するのではなく、複数の資産に分散することで、特定の資産の価格変動がポートフォリオ全体に与える影響を小さくすることができます。以下、リスク分散の重要性とその方法について詳しく解説します。
投資する資産が1つだけの場合、その資産の価値が大きく変動すると、投資全体が大きな影響を受けます。しかし、異なる資産に分散することで、1つの資産が値下がりしても他の資産の値上がりで補うことができ、全体のリスクを軽減することができる場合があります。リスク軽減効果を確認するために、先程説明した相関係数を使って確認してます。資産が異なる市場や経済の影響を受けるため、分散投資をすることでより安定したリターンを得られる可能性が高まります。例えば、株式市場が低迷している時期に債券市場が好調であれば、債券投資が株式の損失をカバーすることができます。投資を分散することで、市場全体の価格変動による影響を緩和し、投資ポートフォリオのボラティリティ(変動性)を抑えることができます。リターンの安定化や市場変動の緩和はリスク低減化です。基本的にはリスクを小さくすればリターンも小さくなります。
異なる資産クラス(株式、債券、コモディティ、不動産、現金など)に分散投資することで、異なる経済環境や市場の変動に対応することができます。例えば、景気後退期には株式のリスクが高まる一方で、債券は比較的安全な資産とされます。
異なる地域や国の資産に投資することで、特定の国や地域の経済状況や政治リスクの影響を軽減することができます。グローバルなポートフォリオを構築することで、地域ごとの市場特性を活かしてリスクを分散します。
同じ資産クラスの中でも、異なる業種やセクターに分散することが重要です。例えば、テクノロジー株、ヘルスケア株、金融株など異なる業種に投資することで、特定の業種に依存したリスクを軽減します。
定期的に一定額を投資する「ドルコスト平均法」を活用することで、市場のタイミングを見計らうリスクを避けられます。価格が高い時にも安い時にも定期的に買い付けるため、平均購入価格が安定し、市場変動の影響を緩和します。
リスク分散は効果的なリスク軽減手法ですが、すべてのリスクを排除できるわけではありません。市場全体の暴落やシステミックリスク(金融システム全体に関わるリスク)など、どの資産にも影響を与えるリスクに対しては有効ではない場合があります。また、分散のしすぎはリターンの低下を招く可能性があるため、適度な分散が求められます。
分散投資はリスクとリターンの関係が単純計算の範囲内には収まりません。たとえば株式と債券を50%ずつ持つことによって分散投資したとします。株式100%で投資した時と比較して、リスクとリターンが共に1/2になると考えるのは間違いです。実際には、リターンが1/2になる時、リスクは1/2以下になると考えられます。その理由が相関係数です。相関係数を意識して分散投資すると、想定されるリターンを得るのにかかるリスクを小さく抑えることが出来るわけです。
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