「長期投資が大事」とはよく聞きますが、実際に50年以上の超長期データで各資産クラスのパフォーマンスを比較したことがある人は、意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、1972年に$1を投資した場合の53年間の成長を、株式・REIT・ゴールド・債券・現金の5つの資産クラスを自分の手を動かして比較してみました。さらに、多くの投資家が見落としがちな「インフレ調整後の実質リターン」にも踏み込み、名目リターンとのギャップから見えてくる本当の資産形成の姿を明らかにします。
なぜ1972年を起点にしたのか
本チャートの起点を1972年にした理由は、REIT(不動産投資信託)のデータが1972年から利用可能になるためです。FTSE NAREIT All Equity REITs Indexは、米国の上場REITのパフォーマンスを追跡する代表的な指数で、1972年から算出されています。
5つの資産クラスすべてを同じ条件で比較するために、この年を起点としました。なお、株式や債券のデータはそれ以前(1926年〜)まで遡ることが可能で、本シリーズの別記事で100年近い超長期チャートも公開しています。

名目リターン:1ドルが53年でいくらになったか
まず、インフレを考慮しない名目トータルリターン(配当・利息を再投資した場合)を見てみましょう。
各資産の成長(1972年→2025年末)
| 資産クラス | $1 → | 年率リターン(CAGR) |
|---|---|---|
| 株式(S&P 500) | $267 | 10.8% |
| REIT(NAREIT) | $119 | 9.3% |
| ゴールド | $52 | 7.7% |
| 債券(米10年国債) | $23 | 6.1% |
| 現金(T-Bill) | $10 | 4.5% |
株式の$267という数字は圧倒的です。1972年に100万円を投資していれば、2025年末には約2億6,700万円になっている計算です(為替変動を除く)。REITも$119と好成績で、不動産という実物資産の裏付けを持ちながら、高い配当利回りを再投資することで大きな複利効果を発揮しています。
一方、ゴールドは$52。「有事の金」「インフレヘッジ」として語られることの多い金ですが、超長期で見ると株式やREITには大きく劣後しています。ただし、1970年代のスタグフレーション期や2008年のリーマンショック後には大きく値上がりしており、ポートフォリオの分散効果という意味では依然として価値のある資産です。
インフレ調整後の実質リターン:本当の購買力はどれだけ増えたか
ここからが本記事の核心です。名目リターンだけを見ていると、インフレによる購買力の目減りを見落としてしまいます。
実質リターンは、名目リターンからインフレ率(CPI-U:消費者物価指数)を差し引いたものです。1972年から2025年までの53年間で、米国の物価は約7.7倍になりました(CPI-U: 41.8 → 322.0)。つまり、1972年に$1で買えたものが、2025年には$7.70以上かかるということです。
実質リターン比較(1972年→2025年末)
| 資産クラス | 名目 $1→ | 実質 $1→ | 名目年率 | 実質年率 | インフレ差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 株式 | $267 | $34.7 | 10.8% | 6.9% | ▲3.9% |
| REIT | $119 | $15.4 | 9.3% | 5.3% | ▲4.0% |
| ゴールド | $52 | $6.8 | 7.7% | 3.7% | ▲4.0% |
| 債券 | $23 | $3.0 | 6.1% | 2.1% | ▲4.0% |
| 現金 | $10 | $1.4 | 4.5% | 0.6% | ▲3.9% |
この表から読み取れる最も重要なポイントは3つあります。
① 株式は実質でも圧倒的
名目$267が実質$34.7に縮小しますが、それでも他の資産クラスを大きく上回っています。実質年率6.9%という数字は、購買力ベースで約10年ごとに資産が倍増するペースです。
② 現金はインフレに食われる
最も衝撃的なのは現金(T-Bill)の実質リターンです。名目では$10と10倍になっているように見えますが、実質ではわずか$1.35。53年間かけて購買力がほぼ増えていません。
「銀行預金が最も安全」という考えは、短期的には正しいかもしれません。しかし、53年間というタイムスパンで見ると、現金で持ち続けることは「ゆっくりとお金の価値が溶けていく」ことと同義です。日本の超低金利環境では、この傾向はさらに顕著と言えるでしょう。
③ ゴールドは「インフレヘッジ」として機能した
ゴールドの実質リターンは$6.8(年率3.7%)。株式ほどの成長力はありませんが、インフレに対して着実に価値を維持・増加させていることがわかります。特に2020年代に入ってからの金価格の上昇は著しく、地政学リスクやインフレ懸念の高まりを反映しています。
53年間のチャートから見える「暴落の歴史」
超長期チャートを眺めると、いくつもの暴落局面が確認できます。
- 1973–74年 石油危機:株式は約▲50%の大暴落。一方でゴールドは急騰。
- 1987年 ブラックマンデー:一日で▲22%の歴史的暴落も、年間ではわずかな下落にとどまった。
- 2000–02年 ITバブル崩壊:ハイテク株中心に大幅下落。REITはむしろ上昇。
- 2008年 リーマンショック:株式▲37%、REIT▲38%。債券とゴールドが逃避先として機能。
- 2020年 コロナショック:急落後の急回復。V字回復の速さが際立った。
こうした暴落局面でも、一度も売らずに持ち続けた投資家だけが、$1→$267の恩恵を受けられたという事実は、長期投資の本質を端的に示しています。
データソースと注記
本チャートで使用したデータソースは以下のとおりです。いずれも学術・機関投資家レベルで広く利用されている信頼性の高いデータです。一部AIを活用して情報収集しましたので、間違い等指摘事項がある場合はご連絡いただけたらと思います。
- 株式(S&P 500):Robert Shiller (Yale) / Ibbotson SBBI (Morningstar) / Damodaran (NYU Stern)
- 債券(米10年国債):Ibbotson SBBI / Damodaran (NYU Stern)
- ゴールド:London PM Fix / Kitco / measuringworth.com
- REIT:FTSE NAREIT All Equity REITs Total Return Index (nareit.com)
- 現金(T-Bill):Ibbotson SBBI / Damodaran (NYU Stern)
- インフレ調整:U.S. Bureau of Labor Statistics, CPI-U Annual Average
なお、本チャートは税金・取引コストを考慮しておらず、配当・利息は全額再投資を前提としています。
まとめ:超長期投資で見えてくる3つの教訓
- 株式の複利効果は圧倒的。 名目でも実質でも、他のすべての資産クラスを大きく上回る。短期的なボラティリティを受け入れられるなら、株式は最も強力な資産形成手段。
- インフレは静かなる資産の敵。 名目リターンだけを見ていると、自分の資産が実際にどれだけ成長しているかを見誤る。特に現金・預金のみで資産を持つことのリスクを認識すべき。
- 分散と忍耐が鍵。 ゴールドやREITは、株式とは異なるタイミングで価値を発揮する。暴落局面で慌てて売らず、複数の資産クラスに分散して長期保有することが、最終的な資産形成の成否を分ける。
53年間のデータは、「今日の相場がどうだったか」よりもはるかに重要なメッセージを私たちに伝えています。時間を味方につけること——それが、資産形成における最大の武器です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資商品の推奨や投資助言を行うものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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